ニトリ
ニトリの四半期決算。2/20〜5/20なのでコロナが本格化した時期の決算ですね。
PLの全ての項目で前年比でプラス成長。
特に営業利益は+22.3%と目を見張るほどの成長です。
ニトリは期間中に緊急事態宣言に伴う臨時休業・営業時間変更があったのですが、まるでそれを感じさせないような決算となっています。
しかもこの結果は通販事業に支えられたがゆえのものでもないんです。しっかり既存店売上は前年同期比でプラスになっている上で、通販売上のYoY+40%もきいているというのが正しい認識。
営業利益が大幅に伸びたのは、粗利が伸びたことに加えて、販管費率が前年より低く抑えられたからです。
ここでは販管費の内訳を見てみます。
売上比で前年より増えたのは人件費のみ。おそらく集荷作業や配送作業など、巣篭もり需要に対応するために増員したためだと思われます。
一方、賃借料と広告宣伝費が両者とも-0.3%と大幅に抑えられています。
賃借料の低下は、ショッピングモールなどに入っている店舗に対する賃料減額(コロナ禍の支援として)なのでしょうか。
広告宣伝費は固定費なので削減対象になったのだと思われます。
ニトリはすでに家具の第一想起をとれていると思いますが、そのため広告宣伝費は一時的に削ったところで影響はそんなにないという判断だったのでしょうか。
発送配達費が絶対額としても下がっているのはなんでだろう。
既存店売上もYoY+2%なので店舗からの発送依頼が減ったわけでもないでしょうし、ホームロジの流通革命が功を奏してるのでしょうか。
だとすると今後もまだ営業利益率が向上する余地があるということになりますね。
ニトリは毎期厚い純利益を計上しており、それゆえ利益剰余金も増えており、純資産が非常に大きな割合を占めている素晴らしい企業。
特に負債を抱えることもなく自社のSPAをより強固にしていける、圧倒的なサイクルが回っているように思えます。
カカクコム
いまや創業事業の価格.comを超える売上を出している食べログ運営のカカクコムの四半期決算を見ていきましょう。
ちなみに同業のぐるなびの四半期決算は相次ぐ退会・休会からメイン収益源の月額料金を満足に獲得できず、固定費率が高かったこともあって14年ぶりの営業赤字となっていました。
さすがの高収益率も、前年同期比ではPL項目のすべてで2桁マイナスとなっています。
なお、飲食店救済の意味も込めて、販促事業の利用料金を4,5月は無償化しており、それも大きな要因となっています。
食べログ事業の中でも飲食店販促事業の売上は大きな割合を占めています。今回の減収のほとんどの要因はこちらからですね。
冒頭でも申し上げましたが、カカクコムの売上構成で最も大きいのは食べログ事業です。
しかし今回、飲食店の営業自習に伴い食べログの利用が激減したのに加え、おそらく巣篭もり消費で追い風だったであろう価格.com事業が全体の63%を占め、祖業に守られた形となりました。
ポートフォリオ経営はこういうときに強いですね。
見やすいように前年同期と比較したのがこちら。
プラス成長しているのは価格.comのショッピング部門、新興メディアのファイナンス部門のみです。
ちなみに価格.comのサービス部門は、
事業者から通信回線の契約や自動車保険、金融、中古車検索などの見積もり/資料請求に応じた手数料収入
のことを指しています。
海外旅行ができないので、この部門の収益が大きく落ち込み、全体としてマイナスになっています。
緩やかな飲食の需要回復は見られるも、引き続き巣篭もり需要もある。
7月からは固定料金+従量料金もとっており、価格.com事業で安定感を見せつつも食べログ事業も回復していくと思われ、そこまで悲観することはない。
なにより2桁億円の営業利益を叩き出したことで、ぐるなびとの差がより鮮明になった決算でした。
ロコガイド
カカクコムやクックパッドの社長を歴任してきた穐田 誉輝さんが創業した、オンラインの販促プラットフォーム「トクバイ」運営のロコガイド。
2020年6月にマザーズに上場をしたばかりなので主な資料は有報のみですが、気になったポイントをいくつか抽出していきます。
まず主な事業内容。
オフラインの折り込みチラシをスマホUIに最適化してオンラインに集約したのがトクバイ。
店舗の網羅性も高く、ユーザーは地元のスーパーを検索すれば安く買い物できる一方で、導入店舗は販促につながるという仕組み。
ある商品をより安く買えるという金銭的インセンティブは強力なもので、新聞折り込みチラシなんて見なくなったこのご時世にスマホで見れるのはユーザーフレンドリー。
また導入する小売店にとっても、従来の折り込みチラシはコストの割に集客できなかったとの声があります。折り込みチラシの場合は効果測定ができないのも難点です。
トクバイは元々クックパッド内のサービスとして始まったので最初から一定以上のユーザー数がいましたが、順調に伸び続けて今年3月末時点で1,000万人超え。
有料契約店舗もおおむね順調に右肩上がりです。
ちなみに有料と無料の機能の違いは以下の通り。
スマホ一台あればすぐに導入できるという簡単さも導入企業数の増加に寄与しています。
・クーポンサイトとは違うのか?
クーポンという仕組みはクーポンを見せた客のみ値引きするのに対して、チラシというのは見ても見ていなくても店で買えばその値段で買えるという違いがあります。
クーポンは管理が大変。オンラインクーポンを導入できない地方の小売店は多いし、紙のクーポンを作ったとしてもしっかり計算しないと収益の帳尻が合わなくなります。
そう考えると、大手スーパーから地方の八百屋まで様々な規模の小売店に導入するならチラシサイトの方が合理的な気はしますね。
・コスト構造
粗利率が92%で営利率が24%程度となっていますが、これを見る限り給料及び手当という固定費が相対的に重くのしかかっている模様。
折り込みチラシが減っていく中でオンラインの折り込みチラシというポジションを確立しているトクバイを導入する店舗が増えるのは当然の流れ。
小規模店舗には地道な営業が欠かせないでしょうが、徐々に固定費率が下がって営業利益率も上昇していくのではないでしょうか。
手間いらず
手間いらずはIT企業の中でも群を抜いて儲かっている会社です。
2019年度の粗利率は驚異の92.3%、営業利益率は65.1%、純利益は42.8%と信じがたい水準となっています。
手間いらずの事業セグメントは2つで、アプリケーションサービス(TEMAIRAZU)とインターネットメディア(比較.com)です。
比較.comはカカクコムが提供する価格.comと紛らわしいですが事業内容もそっくりで、広告掲載やアフィリエイトで収益を立てています。こちらはto C事業なのでもしかしたら聞いたことがある方もいるかもしれません。
しかし実は売上、利益ともに約98%をアプリケーションサービス事業が生み出しており、今回はこちらを深掘りしていきます。
TEMAIRAZUは宿泊施設向けの一括管理SaaSです。
パッと思いつくだけでも、じゃらん、楽天トラベル、トラベルコなど予約サイトは非常に多くなっています。
それらの情報を一括で管理し、たとえば直前になっても予約が入っていない客室の料金を下げるなどを自動で行ってくれます。
「数多くの予約サイトに登録して収益機会を最大化したい」
「しかしその分管理の手間が増えてコストが増えてしまう」
TEMAIRAZUは、こうした旅館のかゆいところに手が届くサービスとなっています。
マネタイズモデルは2種類で、固定収益と変動収益があります。
固定収益:月額料金(+初期費用)
変動収益:予約数に応じた通信料
*旅行サイトによると初期費用は50,000円、月額は9,900円〜とのこと。
不況時のコストカットの一環として不必要なSaaSを解約するというのはよくあることですが、このコロナ禍で、さらに宿泊関連サービスで手間いらずは絶好調の決算をたたき出しています。
これは先ほど説明した固定収入が影響を受けていないことが大きいがゆえの結果です。
この環境下で宿泊施設はコストカットを断行していると思われますが、そんななかでも増収増益を達成する手間いらず。
これなしの世界は考えられない、というソフトウェアを開発した企業は圧倒的な優位性を獲得するというわかりやすい事例でした。
ソウルドアウト 2020Q2
最近、薬機法に違反する体験談を書いたような記事広告を制作をしたとして広告主のステラ漢方の社員と共に社員と委託先社員が逮捕されたソウルドアウト。
(社員逮捕が報じられたのは7月22日で今決算の期間外)
まずは有報から事業内容を確認。(一部省略)
SMB市場において、インターネット広告販売代理等、HR支援、IT化支援等の各種サービスを提供
なお、同社はインターネット広告代理店大手のオプトに約57%を所有される子会社でもあります。
上半期でみればPL指標がすべて前年同期比で大幅に成長。Q2単体ではコロナ禍による広告出稿減の影響が大きく、全て減少している。
ただし、広告業界全体と比較すると影響は限定的で、すでに回復の兆しを見せている模様。
有価証券報告書によると同社は地方及び中堅・中小のSMB向けに事業を展開しているとのことで、コロナの影響が都心より少ない地方では広告需要が微減で済んだというのが大きいのだろうか。
しかし売上が微減したのに販管費は上昇しており、営業利益は-80%とかなり下落している。ちなみにソウルドアウトのQ2(4月〜6月)は新卒入社時期にあたり、販売管理費のうち人件費が上がる傾向にあります。
総括
コロナは今現在(2020/08/03)は都心がメインとなっているが、今後地方にも波及していくのは自明のように思えます。
とは言っても緊急事態宣言が解除され、自粛よりは緩やかに集団免疫を獲得しようという世論のなか(実際できるかは別の問題)、企業活動も徐々に回復していくように思うので徐々に広告出稿も増えていくとは思う。
それにしても地方に特化(割合は不明だが)した広告代理店だったとは知りませんでした。電博による寡占市場で戦うにはいい戦略だったのかもしれませんね。